【その三十四】にぎやかな、お正月

毎年、正月になると、

父の家にみんなが集まりました。

兄弟に、その嫁や婿。

そして孫たち。

「お父さん、あけましておめでとうございます。」

「じいちゃん、今年も元気でいてや。」

「お義父さん、これ好きでしたよね。」

酒まで用意されて、

父は上機嫌です。

今年は、

新年の挨拶まで考えていたそうです。

みんなが揃ったところで、

少し姿勢を正しました。

「えー、今年はな……」

「じいちゃん!」

孫が割って入りました。

「お年玉!」

「お前なあ。

まだ話の途中やろ。」


一人に渡すと、

もう止まりません。

「僕も!」

「私も!」

「はいはい、順番や。」

ポチ袋をもらった孫たちは、

「ありがとう!」

と言ったそばから、

どこかへ行ってしまいます。

そして、その先では、

母親が待っています。

「はい、預かっとくね。」

「えーー!」

「なくすでしょ。」

さらに、

「あのおばちゃんには挨拶した?」

「まだ。」

「ほら、行ってき。」

「なんで?」

「いいから。」

孫は言われるまま、

親戚のところへ向かいます。

「あけましておめでとうございます。」

「あら、はいはい。

ちょっと待ってね。」

しばらくすると、

ポチ袋を持って帰ってきました。

「もらった!」

「はい、預かっとく。」

父が笑いました。

「お前が一番、

正月楽しみにしとるやないか。」

「何言ってるんですか。

ちゃんと貯金してるんです。」


その頃には、

父の新年の挨拶どころではありません。

兄弟は酒を飲み、

嫁たちはしゃべり、

孫たちは遊び、

小さい子は家の中を走っています。

テレビもついています。

誰も見ていません。

さっきまで、

みんなの真ん中にいた父も、

いつの間にか蚊帳の外です。

「やかましい家やなあ。」

そう言いながら、

父は少し離れたところから、

みんなを眺めていました。

結局、

父が考えていた新年の挨拶を、

私たちは最後まで聞けませんでした。


父は時々、

長男である私に言いました。

「お前は、

ほんま頼りないからな。」

「なんやねん、急に。」

「でもまあ。」

父は酒を一口飲みました。

「嫁さんは、

金にしっかりしとる。」

そして、

「あの嫁さんに任しといたら、

間違いないやろ。」

本人には、

そんなこと、

一度も言わなかったと思います。


その年、

父は亡くなりました。

先祖代々のお墓に入りました。

その後、

兄弟で話し合い、

お墓をしまうことにしました。

父はよく、

「静かなところより、

にぎやかな家がええ。」

と言っていました。

遺骨の一部は、

庭のサルスベリのそばに、

還すことにしました。


翌年。

また正月がやってきました。

兄弟も、

嫁も、

孫たちも集まりました。

父はいません。

それでも、

しばらくすると、

去年と変わりません。

「お年玉!」

「はいはい。」

「やったー!」

孫が走っていきます。

その先で、

妻が待っています。

「はい、預かっとくね。」

「えーー!」

「それから、

あのおばちゃんにも挨拶してき。」

「なんで?」

「いいから。」

私は、

その様子を見ていました。

妻がこちらを見ます。

「なに?」

「いや。」

「なによ。」

「なんでもない。」

向こうでは、

また誰かが笑っています。

テレビもついています。

今年も、

誰も見ていません。

窓の外には、

冬のサルスベリが見えました。

「ちょっと、

家の中走らないの!」

また、

妻の声がしました。

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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