毎年、正月になると、
父の家にみんなが集まりました。
兄弟に、その嫁や婿。
そして孫たち。
「お父さん、あけましておめでとうございます。」
「じいちゃん、今年も元気でいてや。」
「お義父さん、これ好きでしたよね。」
酒まで用意されて、
父は上機嫌です。
今年は、
新年の挨拶まで考えていたそうです。
みんなが揃ったところで、
少し姿勢を正しました。
「えー、今年はな……」
「じいちゃん!」
孫が割って入りました。
「お年玉!」
「お前なあ。
まだ話の途中やろ。」
一人に渡すと、
もう止まりません。
「僕も!」
「私も!」
「はいはい、順番や。」
ポチ袋をもらった孫たちは、
「ありがとう!」
と言ったそばから、
どこかへ行ってしまいます。
そして、その先では、
母親が待っています。
「はい、預かっとくね。」
「えーー!」
「なくすでしょ。」
さらに、
「あのおばちゃんには挨拶した?」
「まだ。」
「ほら、行ってき。」
「なんで?」
「いいから。」
孫は言われるまま、
親戚のところへ向かいます。
「あけましておめでとうございます。」
「あら、はいはい。
ちょっと待ってね。」
しばらくすると、
ポチ袋を持って帰ってきました。
「もらった!」
「はい、預かっとく。」
父が笑いました。
「お前が一番、
正月楽しみにしとるやないか。」
「何言ってるんですか。
ちゃんと貯金してるんです。」
その頃には、
父の新年の挨拶どころではありません。
兄弟は酒を飲み、
嫁たちはしゃべり、
孫たちは遊び、
小さい子は家の中を走っています。
テレビもついています。
誰も見ていません。
さっきまで、
みんなの真ん中にいた父も、
いつの間にか蚊帳の外です。
「やかましい家やなあ。」
そう言いながら、
父は少し離れたところから、
みんなを眺めていました。
結局、
父が考えていた新年の挨拶を、
私たちは最後まで聞けませんでした。
父は時々、
長男である私に言いました。
「お前は、
ほんま頼りないからな。」
「なんやねん、急に。」
「でもまあ。」
父は酒を一口飲みました。
「嫁さんは、
金にしっかりしとる。」
そして、
「あの嫁さんに任しといたら、
間違いないやろ。」
本人には、
そんなこと、
一度も言わなかったと思います。
その年、
父は亡くなりました。
先祖代々のお墓に入りました。
その後、
兄弟で話し合い、
お墓をしまうことにしました。
父はよく、
「静かなところより、
にぎやかな家がええ。」
と言っていました。
遺骨の一部は、
庭のサルスベリのそばに、
還すことにしました。

翌年。
また正月がやってきました。
兄弟も、
嫁も、
孫たちも集まりました。
父はいません。
それでも、
しばらくすると、
去年と変わりません。
「お年玉!」
「はいはい。」
「やったー!」
孫が走っていきます。
その先で、
妻が待っています。
「はい、預かっとくね。」
「えーー!」
「それから、
あのおばちゃんにも挨拶してき。」
「なんで?」
「いいから。」
私は、
その様子を見ていました。
妻がこちらを見ます。
「なに?」
「いや。」
「なによ。」
「なんでもない。」
向こうでは、
また誰かが笑っています。
テレビもついています。
今年も、
誰も見ていません。
窓の外には、
冬のサルスベリが見えました。
「ちょっと、
家の中走らないの!」
また、
妻の声がしました。
