「店長。」
バックヤードでパソコンを見ていた店長が、顔を上げました。
「なに?」
「新しく出たカップ麺、かなり売れてますよ。」
「そうなの?」
「そうなのって。店長でしょ。」
「まだ数字には出てないんだよ。」
「売場には出てます。」
店長は黙りました。
「たまには表、出てくださいよ。」
店長は真面目です。
発注も、シフト管理も細かい。
パートからの評判も悪くありません。
ただ、
人見知りがひどく、
できることなら売場へ出たくありません。
「そうだ、店長。」
「今度はなに?」
「いつも来る○○さん、いるでしょ。」
「……誰?」
パートさんは店長を見ました。
「ほらね。」
その○○さんというのは、
このパートさんとよく話をする年配の女性でした。
田舎にあるお墓を、
そろそろ墓じまいしたい。
ところが寺院墓地で、
何から始めればいいのか分からない。
人から、
「離檀料で大変なこともある。」
なんて話まで聞いて、
すっかり不安になっているそうです。
「それで、なんで俺なの?」
「店長、実家お寺でしょ。」
「実家がね。」
「同じようなもんじゃない。」
「違うよ。俺、坊さんじゃないから。」
店長の実家は、
田舎の小さなお寺です。
兄が跡を継ぎ、
店長は大学で東京へ出て、
そのままスーパーへ就職しました。
その日の夜。
店長は、
久しぶりに兄へ電話しました。
「ちょっと聞きたいんだけど。」
「なんだ?」
「墓じまい。」
少し間がありました。
「お前、寺継ぐ気になったか。」
「ならないよ。」
事情を話すと、
兄は教えてくれました。
「離檀料って、やっぱりいるの?」
「寺によるよ。決まった金額があるわけじゃない。」
店長はさらに詳しく念入りにメモを取りました。
翌日。
「これ。」
店長が一枚の紙を渡しました。
「なにこれ。」
「昨日の話。」
パートさんは紙を開きました。
びっしり隙間なく書かれたA4の紙を見て
「店長、こんなに聞いてくれたんですか?」
「こういうところはマメですよね。」
「こういうところは、って何だよ。」

それから、数か月経ちました。
珍しく店長が売場に出ていると、
「店長さん?」
と声を掛けられました。
店長の動きが止まりました。
「……はい。」
年配の女性が、
にこにこしながら立っています。
「○○です。」
店長は、
「……。」
少し離れたところにいるパートさんを見ました。
パートさんが、
目で何かを訴えています。
「あ……。」
ようやく分かりました。
「この前は、本当にありがとうございました。」
「いや……僕は……。」
「おかげさまで、無事に墓じまいできました。」
「あ……そうですか。」
「お寺さんとも、ちゃんとお話できて。」
店長は少しだけ表情を緩めました。
「……それは、よかったです。」
「本当に助かりました。」
「いや、兄に聞いただけなので……。」
女性は何度も頭を下げて、
帰っていきました。
それを見届けたパートさんが、
店長のところへ来ました。
「店長。」
「なに。」
「もうちょっと普段からお客さん見てたら、もっと出世できると思うんだけどねえ。」
「余計なお世話だよ。」
数日後。
パートさんが、
またバックヤードへやってきました。
「そうそう、店長。」
「なに?」
「○○さんね、墓じまい終わってよかったって。」
「うん。」
「急に元気になっちゃって。」
「そうなの?」
「最近、歩こう会、歩こう会って、そればっかりみたいですよ。」
店長も少し笑いました。
パートさんは満足そうにうなずきました。
「店長も、ほんと、たまにはいいことしましたね。」
「たまにはって何だよ。」
それから、また何日か経ちました。
店長はいつものように、
バックヤードでパソコンを見ています。
「店長。」
聞き慣れた声がします。
店長は、
画面を見たまま答えました。
「……今度はなに?」
パートさんが、
ひょいと顔を出しました。
「私の仲いいお客さんがね。」
店長の手が止まりました。
「樹木葬のこと、聞きたいって言ってるんですよ。」
店長が、
ゆっくり顔を上げました。

