【その四十四】スーパーの売り場から

「店長。」

バックヤードでパソコンを見ていた店長が、顔を上げました。

「なに?」

「新しく出たカップ麺、かなり売れてますよ。」

「そうなの?」

「そうなのって。店長でしょ。」

「まだ数字には出てないんだよ。」

「売場には出てます。」

店長は黙りました。

「たまには表、出てくださいよ。」

店長は真面目です。

発注も、シフト管理も細かい。

パートからの評判も悪くありません。

ただ、

人見知りがひどく、
できることなら売場へ出たくありません。

「そうだ、店長。」

「今度はなに?」

「いつも来る○○さん、いるでしょ。」

「……誰?」

パートさんは店長を見ました。

「ほらね。」

その○○さんというのは、
このパートさんとよく話をする年配の女性でした。

田舎にあるお墓を、
そろそろ墓じまいしたい。

ところが寺院墓地で、
何から始めればいいのか分からない。

人から、

「離檀料で大変なこともある。」

なんて話まで聞いて、

すっかり不安になっているそうです。

「それで、なんで俺なの?」

「店長、実家お寺でしょ。」

「実家がね。」

「同じようなもんじゃない。」

「違うよ。俺、坊さんじゃないから。」

店長の実家は、
田舎の小さなお寺です。

兄が跡を継ぎ、

店長は大学で東京へ出て、
そのままスーパーへ就職しました。

その日の夜。

店長は、
久しぶりに兄へ電話しました。

「ちょっと聞きたいんだけど。」

「なんだ?」

「墓じまい。」

少し間がありました。

「お前、寺継ぐ気になったか。」

「ならないよ。」

事情を話すと、
兄は教えてくれました。

「離檀料って、やっぱりいるの?」

「寺によるよ。決まった金額があるわけじゃない。」

店長はさらに詳しく念入りにメモを取りました。

翌日。

「これ。」

店長が一枚の紙を渡しました。

「なにこれ。」

「昨日の話。」

パートさんは紙を開きました。

びっしり隙間なく書かれたA4の紙を見て

「店長、こんなに聞いてくれたんですか?」

「こういうところはマメですよね。」

「こういうところは、って何だよ。」

それから、数か月経ちました。

珍しく店長が売場に出ていると、

「店長さん?」

と声を掛けられました。

店長の動きが止まりました。

「……はい。」

年配の女性が、
にこにこしながら立っています。

「○○です。」

店長は、

「……。」

少し離れたところにいるパートさんを見ました。

パートさんが、

目で何かを訴えています。

「あ……。」

ようやく分かりました。

「この前は、本当にありがとうございました。」

「いや……僕は……。」

「おかげさまで、無事に墓じまいできました。」

「あ……そうですか。」

「お寺さんとも、ちゃんとお話できて。」

店長は少しだけ表情を緩めました。

「……それは、よかったです。」

「本当に助かりました。」

「いや、兄に聞いただけなので……。」

女性は何度も頭を下げて、
帰っていきました。

それを見届けたパートさんが、
店長のところへ来ました。

「店長。」

「なに。」

「もうちょっと普段からお客さん見てたら、もっと出世できると思うんだけどねえ。」

「余計なお世話だよ。」

数日後。

パートさんが、
またバックヤードへやってきました。

「そうそう、店長。」

「なに?」

「○○さんね、墓じまい終わってよかったって。」

「うん。」

「急に元気になっちゃって。」

「そうなの?」

「最近、歩こう会、歩こう会って、そればっかりみたいですよ。」

店長も少し笑いました。

パートさんは満足そうにうなずきました。

「店長も、ほんと、たまにはいいことしましたね。」

「たまにはって何だよ。」

それから、また何日か経ちました。

店長はいつものように、
バックヤードでパソコンを見ています。

「店長。」

聞き慣れた声がします。

店長は、

画面を見たまま答えました。

「……今度はなに?」

パートさんが、
ひょいと顔を出しました。

「私の仲いいお客さんがね。」

店長の手が止まりました。

「樹木葬のこと、聞きたいって言ってるんですよ。」

店長が、

ゆっくり顔を上げました。

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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