父と、もう一度、日本海へ。
子どもの頃、父は海釣りが大好きでした。
休みになると決まって、日本海へ釣りに出かけます。
夕方になると、大きなクーラーボックスを抱えて帰ってきて、
「今日はよう釣れたぞ。」
そう言いながら、自慢げに魚を見せてくれました。
その夜は、父が包丁を握り、新鮮な刺身が食卓に並びます。
家族みんなで囲む、あの食卓が私は大好きでした。
でも、若かった私は田舎が嫌でたまりませんでした。
高校を卒業するとすぐに故郷を離れ、東京へ。
板前として修業を始めました。
毎日魚をさばく仕事。
父と同じように包丁を握るようになって、
初めて気づいたことがあります。
魚を選ぶ目。
包丁を入れる手。
「美味しいものを食べさせたい。」
そんな父の気持ちが、ようやく分かったのです。
何度も故郷へ帰ろうと思いました。

でも店を持ち、忙しさに追われるうちに年月だけが過ぎていきました。
父が亡くなった知らせを受けた時も、すぐには帰ることができませんでした。
墓じまいを終え、その後の供養をどうしようかと考えていた時に知ったのが、粉骨という方法でした。
急いで答えを出さなくてもいい。
まずは父を身近に迎えよう。
そう思い、小さな手元供養を選びました。
今でも店へ出る前には、
「今日も頑張るよ。」
そう父に声をかけています。
そして、いつか店が少し落ち着いたら。
父が大好きだった日本海へ釣りに行こうと思っています。
昔のように、朝早く港へ向かい、ゆっくり竿を出してみたい。
その時、一部を粉骨した父のご遺骨を、日本海へお返ししようと考えています。
父が一番好きだった海へ。
私が、一番好きになった海へ。
きっと、その日は久しぶりに父と二人で釣りをしている気がするのだと思います。
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