父が亡くなってから、
お墓のことは私がするようになりました。
とはいっても、
これまでは、ほとんど父任せでした。
法事も、
お寺への挨拶も、
私は父の横にいただけです。
家族で話し合って、
墓じまいをすることになりました。
今度は、
私が住職に話さなければなりません。
寺へ向かう途中から、
どうにも落ち着きませんでした。
菓子折りは、
これでよかったよな。
最初になんて言うんだ。
こういうとき、
親父、どうしてたっけ……。
昔、
父について寺へ来たときのことを
思い出します。
玄関で頭を下げて、
また頭を下げて。
午後から、仕事が一本残っています。
寺で挨拶を済ませたら、
そのまま仕事に戻らなければなりません。
山門が見えてきました。
一度、立ち止まります。
まあ、
行くしかないか。
「こんにちは。」
出てきた住職に、
「いつもお世話になっております。」
と頭を下げました。
言ってから、
親父もこんなことを
言っていたなと思いました。

部屋へ通され、
お茶をいただきます。
少し世間話をしてから、
私は切り出しました。
「あの、今日は
お墓のことで来まして……。」
住職は、
「はい。」
と湯呑みを置きました。
「家族で話しまして、
墓じまいをしようと思っています。」
「そうですか。」
住職は、
しばらく黙っていました。
そして、
父の話を始めました。
「お父さんには、よく来ていただきましたよ。」
お盆のこと。
法事のこと。
私の知らない父の話も
いくつかありました。
それから、
祖父の話になりました。
「おじいさんのことは、
うちの先代がよく知っていましてね。」
さらに、
その前の代の話。
この寺と、
うちの家との付き合いは、
私が思っていたより
ずっと長かったようです。
私は、
相づちを打ちながら聞いていました。
でも、
話はなかなか終わりません。
もしかして……。
遠回しに、
墓じまいを考え直した方がいいと
言われているんだろうか。
だんだん、
そんな気がしてきました。
私は、
話が途切れたところで、
「あの、住職……。」
もう一度、
きちんと伝えようとしました。
すると住職が、
「ああ、そのことなら。」
少し笑って、
「お父さんから、それとなく聞いていますよ。」
「……え?」
「息子が頑張ったところで、
孫は娘しかいないので、と。」
私は、
何も聞いていませんでした。
住職は続けました。
「その節はお願いします、と言われていましたよ。」
「……そうですか。」
しばらく、
それしか言えませんでした。
住職は、
いつもの調子に戻って、
「では、
日取りを決めましょうか。」
「はい。」
今度は、
すんなり言えました。
「お願いします。」
寺を出たあと、
墓へ寄りました。
さっきまで晴れていたのに、
少し日が陰っていました。
墓のあいだを、
風が抜けていきます。
私は、
しばらく墓の前に立っていました。
何度も見てきた墓です。
でも今日は、
横に刻まれた名前が気になりました。
知っている名前。
知らない名前。
さっき住職から聞いた話を、
ひとつずつ思い出しました。
風が、
また墓のあいだを抜けていきます。
正面に戻って、
手を合わせました。
(じいちゃん。)
(親父。)
そして、
墓じまいをすることを、
心の中で報告しました。

