今日も、砂場で飛んでいます。
私は陸上部です。
専門は走り幅跳び。
子どもの頃から砂場が好きでした。
助走して、
踏み切って、
ふわっと宙に浮いて、
そして砂へ着地する。
あの「ザクッ」と足に伝わる感触が、たまらなく好きなのです。
でも、私はいつも二番ばかり。
練習では跳べる。
それなのに本番になると記録が伸びない。
悔しくて、悔しくて、
日が暮れるまで一人で練習する毎日です。
そんなある日、
少し離れたところから視線を感じました。
見ると、大きな体の男子生徒が、
車いすに座ってこちらを見ています。
最初は気にも留めませんでした。
でも翌日も。
そのまた翌日も。
雨の日には体育館の軒先から。
いつも私の練習を見ているのです。
ある日、思い切って声をかけました。
「私のこと、いつも見てるね。」
すると彼は、
少し照れたように笑いながら言いました。
「俺はラグビー見てるんや。
でも、なんか知らんけど、
いつも砂場で飛んでるやつおるなあと思って。」
ぶっきらぼうな言い方でした。
でも、その顔は少し赤くなっていました。
それから時々、
言葉を交わすようになりました。
でも、ある日から彼は来なくなりました。
友達に聞くと、
元ラグビー部で、
病気が見つかり、
もう学校へ来られなくなったと聞きました。
しばらくして、
久しぶりに彼の姿を見ました。
以前より少し痩せていました。
それでも私を見るなり、
真面目な顔で言いました。
「お前さ。
助走するとき、
息止めてから入るやろ。」
「踏み切りの十センチ手前から飛んでる。
あれ、あかんわ。」
私は言葉を失いました。
自分では気づかなかった癖でした。
その日から助走を変えてみました。
すると、
少しずつ記録が伸び始めたのです。
その後、
彼は帰らぬ人となりました。
ご家族へお参りに伺った時、
仏壇の横に、小さなガラス瓶がありました。
「手元供養にしたんです。」
お母さんが静かに教えてくださいました。
私はお願いをして、
ほんの少しだけ、
彼を分けていただきました。
今、
胸に下げた小さなロケットの中には、
彼がいます。
助走を始める前、
私は昔の癖で、
少し息を止めそうになります。
そのたびに、
あの日の声が聞こえるのです。
「十センチ手前やぞ。」
思わず笑ってしまいます。

そして今日も、
私は砂場で飛んでいます。
彼に、
少しでもいい記録を見せたくて。
