配達の仕事をしています。
その日は朝から、
少し忙しい日でした。
大きな荷物を届け終えて、
ビルを出たところで、
「すみません。」
声をかけられました。
振り向くと、
年配の女性が立っていました。
次の配達があります。
少し急いでいます。
「○○へ行きたいんですが、
こっちで合ってますか?」
どことなく訛りのある、
のんびりした話し方でした。
「そこなら、この道をまっすぐ行って、
二つ目を右です。」
「ありがとうございます。」
女性は、
ゆっくり歩いていきました。
車に戻り、
エンジンをかけます。
バックミラーを見ると、
女性は、
教えた道をちゃんと歩いていました。
そのまま、
次の配達へ向かいました。
あと二件。
すべて届け終わったころには、
昼をだいぶ過ぎています。
いつもの定食屋に入りました。
普段見向きもしないメニューを見ます。
「魚の煮つけ。」
店員さんが、
少し驚いた顔をしました。
「おやっ、
珍しいね。魚の煮つけ~」
「うん。」
しばらくして、
煮つけが運ばれてきました。
一口食べます。
「……母ちゃんのは、
もう少し甘かったな。」
でも、
これはこれで、
うまい。
しばらく食べていると、
ふと、
「そういや、
しばらく行ってないな。」
と思いました。
数週間後。
母ちゃんの墓へ向かいました。
電車を乗り継いで、
そこからバス。
バスを降りて、
今度は坂道を歩きます。
途中で一度、
足を止めました。
「こんな坂だったかな。」
また歩きます。
墓地に着きました。
母ちゃんの墓へ向かっていると、
墓と墓の間に、
ぽつぽつと、
空いた場所がありました。
空いた場所は整地されています。
「こんなにあいてたかな。」
そのまま歩きました。
花を供えて、
手を合わせました。
少しして、
「母ちゃん。」
「あの煮つけ、
何入れてた?」
返事はありません。
しばらくそこにいて、
墓をあとにしました。

また坂を下り、
バス停まで戻りました。
ベンチに座ります。
そろそろ来る時間です。
道路を見ます。
バスが来ません。
もう少し待ちます。
うとうとといつの間にか、
眠ってしまっていました。
「……あっ。」
慌てて時計を見ます。
ずいぶん時間が過ぎています。
のぞき込んだ道路の先にも、
バスの姿はありません。
「まさか、
来てないだろうな……。」
確か
夢を見ていた気がしました。
でも、何の夢だったか
思い出せません。
何か思いだす糸口がないかとも思いましたが
検討がつません。
思い出すのはあきらめることにしました。
そしてもう一度、
時計を見ました。
秒針が、かちっかちっと正確なリズムを刻んでいます。
思わず声が出ました。
「ほんと、遠いなあ……。」

