【その十一】 今日も、砂場で飛んでいます。

今日も、砂場で飛んでいます。

私は陸上部です。

専門は走り幅跳び。

子どもの頃から砂場が好きでした。

助走して、

踏み切って、

ふわっと宙に浮いて、

そして砂へ着地する。

あの「ザクッ」と足に伝わる感触が、たまらなく好きなのです。

でも、私はいつも二番ばかり。

練習では跳べる。

それなのに本番になると記録が伸びない。

悔しくて、悔しくて、

日が暮れるまで一人で練習する毎日です。

そんなある日、

少し離れたところから視線を感じました。

見ると、大きな体の男子生徒が、

車いすに座ってこちらを見ています。

最初は気にも留めませんでした。

でも翌日も。

そのまた翌日も。

雨の日には体育館の軒先から。

いつも私の練習を見ているのです。

ある日、思い切って声をかけました。

「私のこと、いつも見てるね。」

すると彼は、

少し照れたように笑いながら言いました。

「俺はラグビー見てるんや。

でも、なんか知らんけど、

いつも砂場で飛んでるやつおるなあと思って。」

ぶっきらぼうな言い方でした。

でも、その顔は少し赤くなっていました。

それから時々、

言葉を交わすようになりました。

でも、ある日から彼は来なくなりました。

友達に聞くと、

元ラグビー部で、

病気が見つかり、

もう学校へ来られなくなったと聞きました。

しばらくして、

久しぶりに彼の姿を見ました。

以前より少し痩せていました。

それでも私を見るなり、

真面目な顔で言いました。

「お前さ。

助走するとき、

息止めてから入るやろ。」

「踏み切りの十センチ手前から飛んでる。

あれ、あかんわ。」

私は言葉を失いました。

自分では気づかなかった癖でした。

その日から助走を変えてみました。

すると、

少しずつ記録が伸び始めたのです。

その後、

彼は帰らぬ人となりました。

ご家族へお参りに伺った時、

仏壇の横に、小さなガラス瓶がありました。

「手元供養にしたんです。」

お母さんが静かに教えてくださいました。

私はお願いをして、

ほんの少しだけ、

彼を分けていただきました。

今、

胸に下げた小さなロケットの中には、

彼がいます。

助走を始める前、

私は昔の癖で、

少し息を止めそうになります。

そのたびに、

あの日の声が聞こえるのです。

「十センチ手前やぞ。」

思わず笑ってしまいます。

そして今日も、

私は砂場で飛んでいます。

彼に、

少しでもいい記録を見せたくて。

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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