【その十二】鎌倉の波がここにはあります。

鎌倉の波がここにはあります。

私たちは、人生のすべてを、この鎌倉の海からもらったような気がしています。

若い日の夕暮れ。

いい波も潮につぶされる頃、

彼はサーフボードを抱えて海から上がってきました。

私はボディボードを横に置き、

夕日に照らされた彼の大きな背中を眺めていました。

今でも、その輪郭をはっきり覚えています。

彼は、にこっと八重歯を見せながら言いました。

「早いじゃん、もうやめるの?」

私は照れ隠しに、

「今日は私の日じゃないから。」

なんて格好をつけた返事をしてしまいました。

彼は私の横へ腰を下ろし、

二人で日が沈むまで海を眺めていました。

何を話したのかは覚えていません。

でも、

あの夕日の色と、

彼の優しい笑顔だけは忘れたことがありません。

帰る時間になって、

「どうやって帰る?」

と聞き合った私たち。

お互いに相手が、

「もしかしたら車かな。」

なんて少し期待していたのに、

実は二人とも高校生。

電車で来ていたことが分かり、

笑い転げながら駅まで走ったことも、

今では大切な思い出です。

それから私たちは恋をして、

結婚して、

小さなサーフショップを始めました。

民泊も始め、

一男一女にも恵まれました。

子どもたちも、

気がつけば私たちと同じように、

鎌倉の波へ向かうようになっていました。

そんな幸せな毎日が、

ずっと続くものだと思っていました。

でも、

彼は病に倒れ、

あまりにも早く旅立ってしまいました。

最後に彼が残した願いは、

とても彼らしいものでした。

「俺は海へ帰りたい。」

子どもたちも、

何ひとつ迷うことなく、

「お父さんらしいね。」

そう言って笑ってくれました。

私は粉骨をお願いしました。

今はまだ、小さな手元供養として、

彼は私のそばにいます。

そしてこれからも、

子どもたち家族と一緒に、

この鎌倉の海を見守ろうと思っています。

気が向いた日の私は、

やがてボディボードを砂浜へ置いて、

昔と同じ場所へ腰を下ろすのでしょう。

夕日を眺めながら、

隣にいる彼へ、

あの日と同じように話しかけます。

「今日は、私の日だったかな。」

するときっと、

あの八重歯を見せて笑いながら、

「今日は最高の波だよ。」

そう返してくれるような気がしています。

ご家族の供養物語を読んでみる方は

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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