主人が亡くなってからも、
朝の散歩は続けるようにしています。
もう何年になるでしょう。
この道は、
主人と毎朝歩いていた道です。
家を出て、
川沿いを歩いて、
小さな公園を一周して帰る。
雨の日以外は、
だいたい同じ時間。
同じ道です。
一人になってからしばらくして、
私は語りかけるようになりました。
「あそこの梅、咲いたよ。」
「田中さんところのお孫さん、もう中学生だって。」
「あのパン屋さん、ついに閉めたよ。」
もちろん、
ここに主人はもういません。
それでも、何気ない日常を
いつもやさしく語りかけています。
毎朝のように、
すれ違う男の子がいます。
何のスポーツをしているのか、
私は知りません。
いつも走っています。
「おはようございます!」
「おはよう。」
それだけなのですが、
男の子は、
今日も元気に走っていきました。
春になると、
川沿いの桜が咲きます。
「今年は早いなあ。」
夏になると、
公園の木陰で少し休みます。
「今日は暑すぎる~。」
秋には、
落ち葉を踏みながら歩きます。
「掃除する人、大変だろうな。」
冬の寒い朝は、
「今日は短めにしとこうか。」
そんな風に自然を感じては、
成り行きに身を任せます。
町も、
少しずつ変わっていきます。
空き地だったところに家が建ち、
小さかった近所の子が、
急に大きくなったと感じることもあります。
半面、毎朝みかけていた人を、
急に見かけなくなることもあります。
この街にも季節が訪れ、変化とともに人としての営みがある。
それがよくわかるようになりました。
こんな私にも変化があります、
恥ずかしながら、前より歩くのがかなり遅くなりました。
それでも、
朝になると、また靴を履きます。
その日は、
去年と同じころに
桜が咲いているのを見つけました。
「おはようございます!」
あの男の子が、
私の横を走り抜けていきます。
「おはよう。」
遠ざかっていく背中を見送り、
桜を見上げました。

「今年も咲いたよ。」
風が吹いて、
花びらが少しだけ舞いました。
私は声を出して、さらに語りかけました。
「きれいやね。」
返事はありません。
しかし、僅かな風の調べ、草木が身を寄せ合い、
どこかしらから聞こえてくる野鳥のさえずりは
聞こえました。
私はまた、
歩き出します。
私は私の速さで、
いつもの道を歩きます。
そして、
いつものように言いました。
「そろそろ帰るね。」
墓じまいコンシェルジュより
亡くなった人に話すことは、
昔の思い出だけとは限りません。
今日咲いた花。
ご近所のこと。
変わっていく町の景色。
そんな何気ない出来事を、
今も話しかけている人がいます。
季節は巡り、
町も、人も、
少しずつ変わっていきます。
想いを寄せながら、
自分の歩幅で歩いていく。
それもまた、
供養の一つの形なのだと思います。

