父のお墓をしまって、
半年ほど経ちました。
遺骨は、
家から近い樹木葬へ移しました。
今日は、
そこで迎える
初めてのお盆でした。
お参りを終えて、
団地の階段を上ります。
重たい鉄の扉を開けると、
夫は、
「あー、疲れた。」
靴を脱いで、
「風呂、先入るぞ。」
「はいはい。」
私は、
夕飯の支度を始めました。
今日は、
豚しゃぶです。
少しして、
風呂から上がった夫が
冷蔵庫を開けました。
プシュッ。
「もう飲んでるの?」
「いいだろ。
今日はもう終わり。」
ずいぶん、ご機嫌です。
娘が、
豚しゃぶの準備を手伝いながら言いました。
「でも、ほんと近くなったね。」
「そうなのよ。」
前のお墓なら、
お盆の墓参りは
一日がかりでした。
夫も、
ビールを飲みながら、
「いやあ、楽になったなあ。」
本当にそう思います。
私は娘に、
「これなら、あなたも
たまには行けるでしょ。」
「はいはい。」
「“はい”は一回。」
「はーい。」
夫が笑っています。
そのとき、
ガチャ。
玄関の鉄扉が開きました。
「ただいまー。」
息子です。
食卓を見て、
「うわっ、豚しゃぶじゃん。」
「早く着替えてきなさい。」
「はーい。」
しばらくして、
息子も食卓に加わりました。
さっそく肉を取ろうとしたところで、
「あんた。」
「ん?」
「今日、来なかったでしょ。」
「あー……。」
「初めてのお盆だから
行きなさいって言ったでしょ。」
「友達と約束あったんだって。」
すると夫が、
ビールを片手に、
「お前なあ……。」
急に、
眉間へぐっとしわを寄せました。
父のものまねです。
「じいちゃんに怒られるぞぉ。」
娘が吹き出しました。
「似てる(笑)」
私も、
「そんな顔してた、してた。」
息子は、
豚肉を取りながら言いました。
「大丈夫だって。」
「何が大丈夫なんだよ。」
「ちゃんと拝んどいたって。」
「え?」
息子が、
スマホを取り出しました。

「ほら。」
画面を見て、
すぐに分かりました。
前のお墓です。
「これ、いつ撮ったの?」
「しまう前。」
「一人で行ったの?」
「うん。」
知りませんでした。
「ちょっと見せて。」
私がスマホを受け取ると、
夫も、
ビールを持ったまま、
「どれどれ。」
娘も、
「私も見せて。」
三人で、
小さな画面をのぞき込みました。
つい半年前まで、
そこにあったお墓。
「……なんか懐かしいね。」
夫が笑います。
「まだ半年だぞ。」
「でも、なんか懐かしい。」
娘が、
「これ、私にも送って。」
「お母さんにも。」
夫まで、
「俺にも送っといて。」
息子は、
「はいはい。」
スマホを受け取りました。
また、
豚しゃぶが始まりました。
ぐつぐつ。
「それ、もう食べられるよ。」
「これ?」
「それ。」
夫が、
冷蔵庫を開けました。
プシュッ。
二本目です。
息子が、
ちらっと夫を見ました。
少しして、
「父さん。」
「ん?」
「あのさ。」
「なんだよ。」
「お願いあるんだけど。」
夫は、
まだご機嫌です。
息子は少し間を置いて、
「おじいちゃんにも、
拝んだとき相談したんだけどさ……。」

