【その三十九】 記念撮影

墓じまいの日が決まりました。

「娘にも連絡しておくから。」

夫が顔を上げました。

「来てもらうのか?」

「最後なんだから、三人で行きましょ。」

「おめでただぞ。」

「だから早めに聞いとくの。」

夫は、

「はいはい。」

と返しました。

娘はもう嫁いでいます。

初めての子どもを身ごもり、
お腹もずいぶん大きくなっていました。

電話をすると、

「私も行くの?」

「来て。」

「もう結構、お腹重いよ。」

「何もしなくていいから。」

「ほんと?」

「ほんと。」

「……じゃあ行く。」

電話を切ったあと、

カメラを出しました。

少し考えて、

三脚も出しました。

当日の朝。

三脚を車へ積もうとすると、
夫が言いました。

「それも持ってくのか?」

「持ってく。」

「スマホでいいだろ。」

「三人で撮るんだから。」

それだけ言って、
三脚を積みました。

山の麓にある墓地に着きました。

いつもの場所に、
いつもの墓があります。

夫が水を汲み、

花を替えました。

娘も落ち葉を拾います。

「座ってていいのよ。」

「これくらい平気。」

しゃがんだ娘が、

「よいしょ。」

と立ち上がりました。

母は何も言わず、
花を整えました。

三人で線香をあげます。

風に押されて、

煙が墓石の横へ
ゆっくり流れていきました。

「じゃあ、撮るよ。」

母が三脚を広げると、
娘が笑いました。

「ほんとに持ってきたんだ。」

「最後なんだから、ちゃんと撮るの。」

三脚の脚を伸ばし、

カメラを取り付けます。

「お父さん、もうちょっと右。」

「ここ?」

「行きすぎ。」

「どっちなんだよ。」

「お母さん、もうそこでいいじゃん。」

「よくない。」

タイマーを押します。

「早く、早く。」

「お母さんが早くしてよ。」

「今行ってるでしょ。」

母も二人の横へ入りました。

カシャ。

三人で写真を確認します。

「撮れてるじゃん。」

娘が言いました。

母は画面を見て、

「もう一枚。」

「まだ撮るの?」

「念のため。」

もう一度、

三人で墓の前に並びました。

カシャ。

今度は、

「うん。」

とカメラを下ろしました。

娘が墓石に刻まれた名前を
眺めていました。

「ねえ、お父さん。この人って誰?」

「ああ、俺のじいさん。」

「会ったことある?」

「あるよ。怖かったなあ。」

「へえ。そんな話、初めて聞いた。」

それから少し、

夫の子どものころの話になりました。

母にも、

初めて聞く話がありました。

帰り支度をしていると、

娘が聞きました。

「そういえば、お母さんの方のお墓って、まだあるの?」

母の手が、

少し止まりました。

「あるよ。」

「私、行ったことある?」

「小さいころに何度か。」

「覚えてないなあ。」

「そうでしょうね。」

娘は少し考えました。

「そこも行った方がいいの?」

「行かなきゃいけないわけじゃないよ。」

母は、

荷物をまとめながら続けました。

「でも、機会があったら、

一度くらい線香あげてくれたら
うれしいかな。」

「なんで?」

母は娘を見ました。

それから、

大きくなったお腹を見ました。

「その子にね。」

娘も、

自分のお腹に手を置きました。

「今日のお墓じまいのことを、

いつか話してあげられるような
お母さんになってほしいから。」

娘は、

少し黙りました。

風が吹いて、

線香の匂いが流れてきました。

「……じゃあさ。」

娘が言いました。

「無事に産まれたら、

赤ちゃんのはじめての旅だね。」

母は、

「そうね。」

と笑いました。

娘も笑います。

「お母さん、おごりね。」

「え?」

「出産、頑張るんだから。
温泉もね。」

「ちょっと、墓参りでしょ。」

娘は笑いました。

「それは、ついで。」

母は、

「まったく……。」

と言いながら、

三脚をたたみました。

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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