【その四十三】エゴの木

ホームセンターの園芸売り場で、
パートをしています。

オーバーオールの上から、
店のエプロン。

もう何年も、
この格好です。

「すみません。
これ、日陰でも大丈夫ですか?」

「半日陰なら大丈夫ですよ。
でも、西日はちょっと避けた方がいいかな。」

「こっちは?」

「それなら日向の方が好き。」

植物のことなら、
だいたい分かります。

家に帰れば、

「今日も土まみれだな。」

と夫に言われます。

「仕事だからね。」

「好きでやってるんだろ。」

「まあね。」

夫の両親は、
もう亡くなっています。

初めて田舎の実家へ
挨拶に行った日のことは、

今でも覚えています。

緊張する私を、
二人ともよく笑って迎えてくれました。

お義父さんが亡くなり、

そのあとを追うように、
お義母さんも亡くなりました。

二人のお墓は、
今も田舎にあります。

ある日、

仕事中に電話がありました。

墓地を見てくれている方からでした。

「また草、だいぶ伸びてますよ。」

「すみません……。
なかなか行けなくて。」

「遠いのは分かってるんですけどね。」

少し間がありました。

「最近は、何の音沙汰もなく、
そのままのお墓も多いから。」

「はい……。」

「お願いしますよ。」

何度か、
同じような電話をもらっています。

その日は最後に、

「なかなか来られない方は、
最近は墓じまいして、

樹木葬なんかに移される方も
いますよ。」

と言われました。

「樹木葬……。」

家へ帰って、
夫に言いました。

「そろそろ、お墓行かない?」

「今週は疲れてるなあ。」

「あなたの家のお墓でしょ。」

「分かってるよ。」

たぶん、

墓じまいするなら、
私が動くことになるんだろうな。

ちょうどそのころです。

園芸売り場に、

大きな株立ちのエゴの木が
入ってきました。

見た瞬間、

足が止まりました。

「……これ、いいなあ。」

根元から何本も幹が立ち、

細い枝が、

横へ、上へ、

細かく広がっています。

少し離れて見ました。

近づいて、

また枝を見ました。

同じパートの同僚が、

「何がそんなに違うの?」

と聞きます。

「違うよ。
これ、すごくいいよ。」

「どこが?」

「この枝の出方。」

「へえ。」

たぶん、

あまり分かっていません。

値札を見ました。

49,800円。

「……まあ、するよねえ。」

いい株です。

でも、

うちの庭木に五万円。

「無理無理。」

仕事に戻りました。

次の日も、

水をやりました。

枝を見ます。

葉も見ます。

少し離れて、

また見ます。

「また見てる。」

「仕事だよ。」

「昨日も見てた。」

「園芸担当だからね。」

笑われました。

家へ帰ると、

窓の向こうに、
小さな庭があります。

特に何もありません。

いつからか、

そこを眺めることが増えました。

夫がテレビを見ながら、

「最近、よく庭見てるな。」

と言いました。

「そう?」

「なんかあるの?」

庭を見ました。

「なんにもないから見てるの。」

夫は、

「なんだそれ。」

とテレビに戻りました。

エゴの木は、

なかなか売れませんでした。

しばらくすると、

値札が変わりました。

39,800円。

「あ、下がった。」

隣から、

「買う?」

「買わないよ。」

そう言いながら、

また枝を見ました。

それから、

また少し経ちました。

29,800円。

「だいぶ来たなあ……。」

でも、

まだ買いません。

ある日。

いつものように、

エゴの木に水をやっていました。

「○○さん。」

振り返ると、

店長が立っていました。

店長は、

エゴの木を見ました。

「これさ。」

「はい。」

少し間がありました。

「イチゴでいいよ。」

「……イチゴ?」

「15,000円。」

店長を見ました。

エゴの木を見ました。

もう一度、

店長を見ました。

「買います!」

店長が笑いました。

「早いな。」

「ちょっと、お金下ろしてくる!」

エプロンを外そうとすると、

「いいよ、いいよ。」

「でも、今持ってないから。」

店長は、

そのまま歩きながら言いました。

「パート代から引いとくから。」

そして、

少し振り返りました。

「そのかわり、当分辞めないでよ。」

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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