見上げると、
大きな木の枝が、
ゆっくり揺れていました。
葉の間から、
やわらかな光が落ちています。
おばあちゃんは、
しばらく木を眺めていました。
「……いいじゃない。」
娘が、
「お父さん、気に入るかな。」
と聞きます。
「気に入るわよ。」
おばあちゃんは、
もう一度、木を見上げました。
「ここ、お供えも置いて帰っちゃ
いけないんでしょ?」
「それくらいで、ちょうどいいのよ。」
娘が笑います。
「お父さん、帰ったらすぐ晩酌始めないと
気が済まない人だったもんね。」
「そうよ。」
おばあちゃんも笑いました。
「お供え禁止ぐらいで、
ちょうどいいの。」
今日は、
おじいちゃんのお墓をしまい、
樹木葬へ
お骨を移す日でした。
納骨が終わると、
三人で並んで、
手を合わせます。
おばあちゃんは、
少し長く、
その場所を見ています。
そこへ孫が聞きました。
「おじいちゃん、
今日からここ?」
「そうよ。」
おばあちゃんは、
孫の顔を見ました。
「家も近くなったんだから、
たまにはお母さんと一緒に
来なさいよ。」
「えー。」
「えー、じゃないの。」
おばあちゃんは、
小指を出しました。
「約束。」
「分かったよ。」
「ほんと?」
「ほんと。」
「じゃあ、げんまん。」
孫も、
仕方なさそうに
小指を出します。
その光景を見て、
娘は、
ずっと昔のことを
思い出しました。
子どものころ、
母は何かにつけて、
私にも指切りをさせました。
宿題。
お手伝い。
帰る時間。
「ちゃんとやるのよ。」
「分かってる。」
「ほんと?」
「ほんと。」
ことあるごとに
決まって小指を出します。
「じゃあ、約束。」
そのたびに私は、
「またぁ?」
と言っていました。
「はい。」
おばあちゃんが、
小指を離しました。
孫も、
ほっとしたように
手を引っ込めました。
「お母さーん、行くよー。」
「はいはい、
今行くわよ。」
帰りにお決まりのファミレスへ。
料理を食べながら、
孫が聞きました。
「ねえ、おばあちゃん。」
「なに?」
「おじいちゃん、
あそこに引っ越したの?」
おばあちゃんは、
少し考えました。
「まあ、そんなところね。」
「じゃあ、ずっとあそこ?」
「そうよ。」
おばあちゃんは、
お茶を一口飲みました。
「家も近くなったんだから、
さっきの約束、忘れないでよ。」
「分かってるよ。」
今度は、
娘を見ました。
「あんたもね。」
「私?」
「旦那さんの方のお墓もあるから、
大変でしょうけど。」
「たまには、
この子連れて来なさいよ。」
「分かってるよ。」
おばあちゃんは、
少しだけ声を落としました。
「頼んどくね。」
「うん。」
「でも、あそこは永代供養だし、
お金も全部払ってあるから、
安心なのよ。」
「うん。」
「あとは私が、
あの世へ行くだけだわ。」
「いやだ、お母さんたら。」

その横から、
孫がメニューを差し出します。
「おばあちゃん、
パフェ食べていい?」
「いいわよ。」
孫がうれしそうにはしゃぐと、
おばあちゃんは、
すぐに付け加えます。
「その代わり、
さっきのげんまんだよ。」
「分かったよ。」
娘は、
二人を見て笑いました。
おばあちゃんが、
今度は娘に聞きました。
「あなたはデザートは?」
「私も、もらおうかな。」
「好きなもの言いなさいよ。」
娘は、
メニューを開きました。
おばあちゃんも、
横から一緒にのぞき込みます。
しばらくして、
何かを思い出したように、
「そういえばね。」
「なに?」
「積み立てしてるのよ。」
娘が、
メニューから顔を上げました。
「何の?」
おばあちゃんは、
何でもないことのように言いました。
「葬儀積み立て。」
少し間を置いて、
「そういうのがあるのよ。」

