お墓じまい後の物語– category –
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お墓じまい後の物語
【その三十】心の夫へ
主人が亡くなってからも、 朝の散歩は続けるようにしています。 もう何年になるでしょう。 この道は、 主人と毎朝歩いていた道です。 家を出て、 川沿いを歩いて、 小さな公園を一周して帰る。 雨の日以外は、 だいたい同じ時間。 同じ道です。 一人になっ... -
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【その二十九】すき焼きの意味
三回忌を前に、久しぶりに実家へ帰りました。 「来たよ。」 「うん。」 母は台所。 父は居間でテレビを見ています。 父と母はほとんど話さない。 私も何を話していいのか分からない。 弟がいなくなってから、 この家はずっとこんな感じです。 そして、仏壇... -
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【その二十八】片道切符
銀座へ来た頃の私は、お金さえあれば人生は変えられると思っていました。 貧乏家庭で育った私にとって、留学は夢でした。何かで、身を立てたい。留学はその一歩。 そのためには売り上げること。 お客様は、夢をかなえるためのお金。 そう割り切っていまし... -
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【その二十七】沈(ちん)
三十年ぶりの高校の同窓会でした。 結婚し、 子どもを育て、 離婚を経験し、 いつしか高校時代の友人とは、ほとんど連絡を取らなくなっていました。 だからでしょうか。 会場へ入った私は、 今思い返しても笑ってしまうくらい緊張していました。 顔には見... -
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【その二十六】銀杏の木
「金物屋の○○さん、今日もシャッター閉まったままやな。」 組長さんがそうつぶやくたび、 私は四軒先の店先を見てしまいます。 主人に先立たれてから、 私は小さな煙草屋を続けています。 昔は魚屋も、履物屋も、文房具屋も並び、 子どもたちの声が絶えな... -
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【その二十五】赤ちょうちん
年金が振り込まれる日。 二か月に一度だけの贅沢があります。 駅前の赤ちょうちんです。 昼間から酒を飲む人で賑わうその店は、場外馬券場から少し離れた路地裏にありました。 初めて暖簾をくぐった日は、少し緊張したものです。 赤星の大瓶。 煮込み。 こ... -
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【その二十四】つつじの香り
私は粉骨を生業としています。 工房を構え、一柱、一柱のお骨と向き合いながら、粉骨のお手伝いをさせていただいております。 ある日のことでした。 取引先の葬儀社から一本の電話が入りました。 「お客様が、どうしても直接お会いしてお願いしたいとおっ... -
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【その二十三】九月の温泉
母の話を、 私はちゃんと聞いていませんでした。 適当に相づちを打ち、 話が長くなりそうになると、 自分の部屋へ戻る。 そんな毎日でした。 母は、 どんな話でも楽しそうに話しました。 時には、 誰にも似ていない物まねまでして。 その時の私は笑いもし... -
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【その二十二】兄弟船
築地の朝は早い。 白い息が立ちのぼり、 魚箱へクラッシュアイスが勢いよく落とされる。 競りが始まる前の市場は、 いつも戦場のようでした。 私は魚を見れば、 どこの港で揚がったか、 どんな漁をしたか、 ほとんど分かりました。 それだけは、 誰にも負... -
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【その二十一】二杯だけの約束
「合祀という供養があります。」 その言葉を初めて聞いたのは、 火葬場でした。 葬儀は行わず、 直葬という形を選びました。 あまりにも突然の別れだったので、 何を言われても頭に入りませんでした。 気が付けば、 骨壺は六畳間の衣装ケースの上に置かれ...
