【その八】 また、家内と旅に出ようと思います。

また、家内と旅に出ようと思います。

家内が亡くなってからというもの、私はしばらく何も手につきませんでした。

朝起きても、何をする気にもならない。

食事も適当。

身なりも気にしなくなり、

生きているのか、ただ時間だけが過ぎているのか、自分でも分からない毎日でした。

そんなある朝、鏡に映った自分を見て思ったのです。

「こんな姿では、家内に申し訳ない。」

家内は、いつも身ぎれいな人でした。

しわのあるシャツを着ている私を見ると、

黙ってアイロンをかけてくれていました。

そんな家内を、私は最後まできれいな姿で見送ることができました。

だからこそ思ったのです。

私も、家内に恥ずかしくない人生の締めくくりをしよう。

それが、私の新しい生きがいになりました。

いらなくなった物は少しずつ整理しました。

まだ使える物は、誰かに使ってもらえるようリサイクルへ。

財産のこと。

保険のこと。

身の回りのこと。

一つひとつ片付けるたびに、

「これで家内にも顔向けできる。」

そんな気持ちになっていきました。

そして最後に残ったのが、お墓でした。

私たちには子どもがいません。

望まなかったわけではありません。

若い頃は二人で何度も話し合い、

授かれたらいいね、と願った時期もありました。

それでも、その願いは叶いませんでした。

子どもをあきらめた頃からでしょうか。

やり場のない寂しさを埋めるように、

私たち夫婦は旅に出るようになりました。

国内も、海外も。

見たことのない景色を二人で歩き、

知らない街で笑い合う時間が、私たちの宝物になりました。

墓じまいを考えるようになり、

その後の供養を調べていた時、

粉骨という方法を知りました。

そして、その先に海洋散骨という選択肢があることも。

不思議でした。

その言葉を聞いた時、

私の中にあった迷いが、すっと消えたのです。

私が元気なうちは、

家内はこれまでどおり、お墓で見守ってくれていればいい。

そして私の役目が終わる日が来たら、

私も粉骨してもらい、

家内と一緒に海へ帰ろう。

今は、その準備を少しずつ進めています。

また、家内と旅に出られるような気がして。

今度は、帰る時間を気にしなくてもいい旅です。

だから私は、

その日が少しだけ楽しみなのです。

ご家族の供養物語を読んでみる方は

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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