【その十八】午後五時になると。

午後五時になると。

私たちには子どもがいません。

若い頃、

「二人だけの人生もいいよね。」

そんなふうに話していた時期もありました。

でも、いざ本当に子どもが欲しいと思った時には、

なかなか授かりませんでした。

不妊治療も受けました。

あと少し。

そんなことも何度かありました。

それでも願いは叶わず、

心も少しずつ疲れてしまいました。

このままでは、

夫婦まで壊れてしまう。

そう思い、

私たちは治療を終えることにしました。

そんな私たちの家へやって来たのが、

一匹の柴犬でした。

二人とも、

「犬を飼ったくらいで何が変わるわけでもない。」

そんなふうに強がっていました。

だから名前も、

柴犬だから、

SHIBA。

なんとも安直な名前です。

でも、

その子はあっという間に、

私たちの暮らしの真ん中になりました。

私はガーデニングが趣味で、

庭には一本の柿の木があります。

SHIBAはその木の周りを、

ぐるぐる走るのが大好きでした。

勢い余って目を回し、

また走る。

その姿を見て、

私たちは毎日のように笑っていました。

旅行へ出かけることも少なくなりました。

休日は庭で過ごすことが増えました。

私たちは、

まるで子どもに話しかけるように、

SHIBAへ話しかけていました。

すると本当に、

全部分かっているような顔をするのです。

ある日、

私はバイク事故で足を骨折し、

一か月ほど入院することになりました。

退院が近づいた頃、

見舞いに来た主人が笑いながら言いました。

「SHIBAな、

毎日午後五時になると、

門の前で座って待っとる。」

午後五時。

それは私が夕飯の買い物を終え、

家へ帰る時間でした。

私は思わず笑いました。

「ほんま、それって忠犬ハチ公やな。」

退院の日。

私は主人にお願いして、

少し手前で車を降ろしてもらいました。

松葉杖をつきながら、

ゆっくり歩いて帰ります。

すると、

門の前には、

いつものようにSHIBAが座っていました。

私は思わず前へかがみ、

頭をなでながら言いました。

「ほんまに、

あんたは忠犬ハチ公や。」

涙が止まりませんでした。

それから何年も、

SHIBAは私たちのそばで暮らしてくれました。

そして、

とうとうその日が来てしまいました。

私たちは話し合いました。

葬儀を終え、

粉骨してもらい、

庭の柿の木の根元へ還そうと。

あの子が、

一番好きだった場所だからです。

今でも、

午後五時になると、

私はなんとなく門扉を見てしまいます。

もちろん、

そこにはもう誰も座っていません。

でも、

風に揺れる柿の葉を見るたび、

あの子が木の周りを、

ぐるぐる走っているような気がするのです。

「SHIBA。」

そう呼べば、

今にも、

しっぽを振りながら走ってきそうで。

私は今日も、

柿の木へ水をやります。

あの子が大好きだった場所へ。

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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