【その四十一】いつもの席

父が亡くなって、四年が経ちました。

田舎へ帰るのは、
三回忌以来です。

ある日の夜、
母から電話がありました。

「お墓ね、しまおうと思ってる。」

「墓じまい?」

「うん。」

少し考えて、

「まあ、その方がいいかもな。」

と答えました。

私は東京に家を持ち、
息子もこちらで育っています。

田舎へ戻る予定もありません。

「一度、帰ってこれる?」

「分かった。みんなで行くよ。」

父とは、
仲が悪かったわけではありません。

ただ、
顔を合わせれば何か言われる。

「仕事はどうなんだ。」

「もう少し先のこと考えろ。」

東京へ出てからは、
母とはよく電話をしました。

「お父さんに代わろうか?」

「いや、いいよ。」

父が亡くなったときは、
もちろん寂しかった。

でも、

もう説教されることもないんだな。

そんなことを思った自分もいました。

二年ぶりの田舎です。

妻と息子を連れて、
久しぶりに墓へ向かいました。

母は先に来て、
墓のまわりの草を抜いていました。

「ばあちゃん!」

息子が駆けていきます。

「走ると転ぶよ。」

「大丈夫だって。」

「大丈夫じゃないよ。」

そんな声を聞きながら、
墓を見ました。

ここへ来るのも、
二年ぶりでした。

「○○さんとこの息子さんか?」

振り返ると、
近所のおじいさんが立っていました。

「はい。ご無沙汰してます。」

「久しぶりだなあ。」

隣にいる息子を見ます。

「坊ちゃんか?」

「はい。」

「こんな大きくなって。」

そして主人公を見て、

「いいお父さんになったなあ。」

「いやあ。」

何と返していいか分からず、
笑いました。

おじいさんは墓を見て、

「お父さんには、ずいぶん世話になったよ。」

「親父に?」

「ああ。いろいろとな。」

「そうですか。」

自分の知らない父が、
この村にはいたようでした。

その日の夕方。

実家の座卓には、
母が用意した料理が並びました。

芋の煮ころがし。

おひたし。

魚の煮つけ。

その横には、
ハンバーグとソーセージまであります。

息子がすぐに気づきました。

「ばあちゃん、これ俺の?」

「そうだよ。」

「やった。」

「野菜も食べなさいよ。」

「はーい。」

座卓の奥にある座椅子へ腰を下ろしました。

昔から、
父が座っていた場所です。

この座椅子に座った親父から、
よく説教されたな。

そんなことを思いながら、
芋を一つ口に入れました。

「懐かしいな、これ。」

座卓を見回して、

「田舎くさいもんばっかりだけど。」

そう言って妻を見ました。

「私は好きだけど。」

「ほら。」

なぜか母が、
得意そうに言いました。

息子はハンバーグを食べています。

「お父さん、魚も食べたら?」

「食べてるよ。」

「全然減ってないじゃん。」

「お前はハンバーグばっかりだろ。」

妻が笑いました。

食事の途中で、

「あ、そうだ。」

母が何かを思い出しました。

奥の部屋から、
一通の封筒を持ってきます。

「これね。」

「なに?」

「どうしようかと思ってたんだけど。」

母は、
目の前に置きました。

「お父さんから。」

「親父から?」

「うん。」

「俺に?」

「そう。」

封筒を手に取ります。

見覚えのある字でした。

――○○へ

田舎に帰ってきて、
墓のことまでとなると、
忙しいお前には気が引けるだろう。

墓は、
母さんに頼んで、
しまうことにした。

これは俺が決めたことだ。

もう、
そういう時代でもない。

だから、
墓のことは気にするな。

ただ一つ。

母さんも、
もう年だ。

たまには田舎に帰って、
母さんを安心させろ。

それで、
一緒に飯でも食え。

――父

手紙から目を上げました。

座卓の向こうでは、

「ソーセージも食べなさい。」

「食べる。」

「おひたしも。」

「それはいらない。」

「一口くらい食べなさい。」

「えー。」

母と孫がやり合っています。

妻が笑っています。

手紙を折って封筒へ戻しました。

「……死んでからまで説教かよ。」

母が笑いました。

「お父さんらしいでしょ。」

「ほんとだよ。」

それだけ言って、
また箸を取りました。

しばらくして、

「ばあちゃん。」

息子が言いました。

「ソーセージ、もうない?」

「あるよ。」

母が立とうとしました。

「いいよ。」

私は、座椅子から立ち上がりました。

母が少し驚いて、

「あら、珍しいね。」

「……

七味ないかなと思って。」

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この物語は、「お墓じまい後の物語」のオリジナル作品です。

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