父が亡くなって、四年が経ちました。
田舎へ帰るのは、
三回忌以来です。
ある日の夜、
母から電話がありました。
「お墓ね、しまおうと思ってる。」
「墓じまい?」
「うん。」
少し考えて、
「まあ、その方がいいかもな。」
と答えました。
私は東京に家を持ち、
息子もこちらで育っています。
田舎へ戻る予定もありません。
「一度、帰ってこれる?」
「分かった。みんなで行くよ。」
父とは、
仲が悪かったわけではありません。
ただ、
顔を合わせれば何か言われる。
「仕事はどうなんだ。」
「もう少し先のこと考えろ。」
東京へ出てからは、
母とはよく電話をしました。
「お父さんに代わろうか?」
「いや、いいよ。」
父が亡くなったときは、
もちろん寂しかった。
でも、
もう説教されることもないんだな。
そんなことを思った自分もいました。
二年ぶりの田舎です。
妻と息子を連れて、
久しぶりに墓へ向かいました。
母は先に来て、
墓のまわりの草を抜いていました。
「ばあちゃん!」
息子が駆けていきます。
「走ると転ぶよ。」
「大丈夫だって。」
「大丈夫じゃないよ。」
そんな声を聞きながら、
墓を見ました。
ここへ来るのも、
二年ぶりでした。
「○○さんとこの息子さんか?」
振り返ると、
近所のおじいさんが立っていました。
「はい。ご無沙汰してます。」
「久しぶりだなあ。」
隣にいる息子を見ます。
「坊ちゃんか?」
「はい。」
「こんな大きくなって。」
そして主人公を見て、
「いいお父さんになったなあ。」
「いやあ。」
何と返していいか分からず、
笑いました。
おじいさんは墓を見て、
「お父さんには、ずいぶん世話になったよ。」
「親父に?」
「ああ。いろいろとな。」
「そうですか。」
自分の知らない父が、
この村にはいたようでした。
その日の夕方。
実家の座卓には、
母が用意した料理が並びました。
芋の煮ころがし。
おひたし。
魚の煮つけ。
その横には、
ハンバーグとソーセージまであります。
息子がすぐに気づきました。
「ばあちゃん、これ俺の?」
「そうだよ。」
「やった。」
「野菜も食べなさいよ。」
「はーい。」
座卓の奥にある座椅子へ腰を下ろしました。
昔から、
父が座っていた場所です。
この座椅子に座った親父から、
よく説教されたな。
そんなことを思いながら、
芋を一つ口に入れました。
「懐かしいな、これ。」
座卓を見回して、
「田舎くさいもんばっかりだけど。」
そう言って妻を見ました。
「私は好きだけど。」
「ほら。」
なぜか母が、
得意そうに言いました。
息子はハンバーグを食べています。
「お父さん、魚も食べたら?」
「食べてるよ。」
「全然減ってないじゃん。」
「お前はハンバーグばっかりだろ。」
妻が笑いました。
食事の途中で、
「あ、そうだ。」
母が何かを思い出しました。
奥の部屋から、
一通の封筒を持ってきます。
「これね。」
「なに?」
「どうしようかと思ってたんだけど。」
母は、
目の前に置きました。
「お父さんから。」
「親父から?」
「うん。」
「俺に?」
「そう。」
封筒を手に取ります。
見覚えのある字でした。
――○○へ
田舎に帰ってきて、
墓のことまでとなると、
忙しいお前には気が引けるだろう。
墓は、
母さんに頼んで、
しまうことにした。
これは俺が決めたことだ。
もう、
そういう時代でもない。
だから、
墓のことは気にするな。
ただ一つ。
母さんも、
もう年だ。
たまには田舎に帰って、
母さんを安心させろ。
それで、
一緒に飯でも食え。
――父

手紙から目を上げました。
座卓の向こうでは、
「ソーセージも食べなさい。」
「食べる。」
「おひたしも。」
「それはいらない。」
「一口くらい食べなさい。」
「えー。」
母と孫がやり合っています。
妻が笑っています。
手紙を折って封筒へ戻しました。
「……死んでからまで説教かよ。」
母が笑いました。
「お父さんらしいでしょ。」
「ほんとだよ。」
それだけ言って、
また箸を取りました。
しばらくして、
「ばあちゃん。」
息子が言いました。
「ソーセージ、もうない?」
「あるよ。」
母が立とうとしました。
「いいよ。」
私は、座椅子から立ち上がりました。
母が少し驚いて、
「あら、珍しいね。」
「……
七味ないかなと思って。」

